第6章 真実への扉
ロナルドは、その先の言葉を飲み込んだ。
それが今の彼の優しさだと思った。
「……とにかく今は、クロエの知りたい事の一つが目と鼻の先にあるんだし、折角ならやり通さないともったいないっしょ?」
「そう……だね」
「あー! でもその前に回収あるんだったわ! こういうときだからこそ、仕事はいつも通りやんないとね」
そう言う彼は、わざと普段通りを装っているようだった。
その気遣いに、嬉しさと切なさの両方を感じた。
その夜、昨夜と同じ辺りから私の家を見張った。
今日もまた、家族達は在宅しているようだ。
「ローズ伯母さんって、どんな人?」
「明るい茶色の、長い癖のある髪の人だよ」
「クロエはお母さん似?」
「うん、お父さんよりはお母さんに似てるって言われることが多かったかな」
ロナルドは少し考え、私に提案した。
「多分このまま見てるだけじゃ、進展しないと思うんだけどさ」
「うん」
「俺、クロエの家族に会ってきても良い?」
思い掛けない話だった。
確かに、見ているだけで掴める情報は少ないが、一体どのようにして接触しようというのか。
「俺に少し考えがある」
「どんな?」
「ヤードを装って近づくんだよ」
「ヤード?」
「そう。ぶっちゃけ、もう少しするとこの辺で殺人が起こるっぽいんだよね。……あ、これ情報漏えいになるから、時間前に俺から聞いたことは秘密な」
ここからすぐ近くの家に住む老婆が、強盗殺人に遭って亡くなる予定だと言う。
死亡予定者リストの情報を元に、本物のヤードが来る前に聞き込み調査として、私の家族と接触を図ろうと言うのだ。
「魂の回収には行かなくて良いの?」
「ここは俺の管轄外だから、他の回収課の奴が来るはず」
ロナルドが腕時計を確認した。
「もうそろそろだな」
「……私は、どうすれば良いかな」
「どうしたい?」
「うーん……」
もう会えないはずの両親や妹達に、会えるかもしれない。
だがそれは、“現実”だとしても、この私にとっては“幻想”と同じでしかないのだ。
家族を前にしてしまったら、心の奥にしまっておいた昔の記憶が、溢れてきてしまうかもしれない。
それに耐えられるのかどうか、わからなかった。