第3章 芽生え
「先に少し言っておくと、クロエは明日もロナルドの仕事に同行することになるわね」
「手伝えることもないし、邪魔じゃないのかな」
「邪魔だなんてとんでもない!」
ベッドをバサっと叩いて言った。
「ロナルドのあんな顔、見たことなかったわよ」
「あんな顔って?」
「なんて言うのかな、こう、切ない感じ? 多分彼は、本当はクロエのそばにずっといてあげたいんだと思う」
また少し、胸が高鳴った。
「だけど、夜の間もずっと一緒にってわけにはいかないのね。彼、意外とそういうところは真面目だから」
「……そう、なの?」
「あーもう! 一緒にいたいならそう言えばいいのにね!! 焦れったいんだから」
「いや、でも本当にそう思ってるとも限らないし」
エマは、私の手を取って言った。
「間違いなく、クロエはロナルドにとって、特別な存在よ。そこには、死神だとか人間だとかの垣根はない」
エマの黄緑色の瞳が、私の目をまっすぐに見ていた。そうか、エマも死神なのかと、改めて思わされた。
「まさかロナルドが、ね」
「え?」
「前に言ったじゃない、死神と人間の間に愛があったらどうのって」
「……あぁ」
「もしかしたら、もしかするのかなって思って」
「ないない!! ……と思う」
私は、自分が抱いている彼への気持ちの正体が、正直わからなくなっていた。
でも、もし彼が本当に私のことを特別な存在だと思ってくれているのなら、それは嬉しいことだと素直に思えた。
「さて! パジャマと枕を持ってくるわね!」
「ん?」
「今日こそ、ここにお泊まりさせてもらうの! ロナルドにクロエのことを見ているように頼まれたんだもの。夜の間はワタシがしっかりと守らなくちゃ」
そう言ったエマは、一度部屋から出て行った。
エマの言葉に、嬉しいような、でも少し切ないような気持ちが芽生えた。