第3章 芽生え
「ジャガイモの皮」
「え?」
「……を、揚げたやつ」
ロナルドは黙った。
私は、何かまずいことを言ったかと不安になり、彼の顔を見ることができなかった。
だが少しして、ロナルドはデスサイズを引いていない方の手で、私の手を取った。
「おいで」
そう言うと、私を引いて歩き出した。
昨夜入ってきた通路とはまた別の、狭い出口から出た私達は、他の死神に見つからないよう、音を立てないようにして進んだ。
やはりここの空気はひんやりしている。しかしそれは凍えるような寒さではなく、どこか心地良さを感じた。
木が生い茂る道を抜けると、少し広くなっている場所に出た。
ロナルドは引いていた私の手を離し、デスサイズを片方の肩に引っ掛けた。
「さ、こっち来て」
静かにそう言った彼は、私を優しく抱き寄せ、両手で軽々と抱え上げた。
昨夜もこんな風に抱えられていたのだろうか。
「重くないの」
「全然!」
そう微笑む彼の顔が、すぐ近くにある。
昨夜と違って、目隠しがないのだ。急に緊張感が走った。
「高い所は平気?」
「うん、割と平気な方」
よし、と、また微笑む。
「その手」
「手?」
「ちゃんと俺の肩に抱きついてて」
私は言われた通りにした。
更に近づく彼との距離に、先程から高鳴り続ける心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思った。
「ちょっとビックリするかもよ」
彼はそう言い終えると同時に、勢いよく跳んだ。
否、跳んだというより、飛んでいるに近い。
濃い霧に包まれているような白い空間を突き抜けている。
上昇していく感覚から、今度は降下していく感覚に変わった。
霧のようなものが消え、一瞬建物の屋根の上へ着地したように見えたが、またすぐに飛び上がった。
それが数回繰り返された。私は、驚いたと同時に感動していた。
地面へ着地すると、ロナルドは私をその場へ降ろした。
肩に掛けていたデスサイズも地面に置き、手帳を取り出して、右腕の時計を見ながら確認をしている。
「いいね。予定通り」
私は自分がどこにいるのか、それどころか、ここがロンドンなのかどうかもよくわからないまま、ロナルドについていくだけだった。