第2章 ***
最初で最後のデートのはずだった……しかし。
一度目のデートの時九条さんに連絡先を聞かれ、私たちはその後も何度か食事をする仲になった。
九条さん程素敵な人だ、きっと結婚もしていてお子さんだっているに違いない。
そう思って聞いてみた事があったが、彼はこの年まで未婚だという話だった。
『なかなか縁が無くてね…。でもさ…結月ちゃんを初めて見た時…なんかこう、ビビビッて来たんだ』
冗談混じりに彼はそんな事を言っていた。
数回目のデートでは、彼の人柄にもすっかり惹かれていた私…
この先こんな素敵な人から声を掛けてもらえる事なんて一生無いかもしれない。
例え遊ばれていたとしても、少しの間夢を見ていられるなら…
そう思い、『結月ちゃんさえ良ければ、僕の恋人になってくれないかな?』という彼の告白を私は受ける事にしたのだ。
こうして晴れて(?)彼と恋人同士になった私。
とは言え普通のカップルのように毎週末会えるという訳ではないので、いつも九条さんが時間を作って会いに来てくれる。
(…もう11時半か)
「仕事が終わったら会いに行く」と言われていただけで明確な時間の約束などしていなかったが、もうすぐ日付けが変わってしまう。
先程から何度かスマホをチェックしているものの、彼からの連絡は無し。
「やっぱり行けなくなった」なんて言われたら悲しいな…
そう落ち込んでいた時だった。
部屋のドアの開く音が聞こえ、待ち詫びていた恋人の姿が目に入った。
「九条さん…!」
「遅くなってごめんね…色々立て込んじゃって」
「いえ、お疲れ様です!」
さっきまで沈んでいた気持ちが嘘のように軽くなる。
こうして忙しい中、約束通り会いに来てくれただけで十分だ。
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