第2章 ***
(九条さん、遅いなぁ…)
『超』が付く程豪華なスイートルームの一室で、私は一人溜め息をついた。
ここへ来たのは初めてではなかったが、何度来ても慣れる事はない。
どう考えたって、社会人になりたての私の身の丈には合っていないからだ。
豪華なシャンデリア…上品な調度品の数々…
ベッドもソファーもふかふか。
この部屋を借りたのは当然私ではなく、恋人である九条さんだった。
今日は互いの仕事が終わった後、この部屋でゆっくり過ごそうと約束していたのだが。
忙し過ぎる彼の事…ここへ来るのはいつになるか分からない。
(そもそもなんで私なんかと付き合ってるんだろ…)
九条 律さん。
これまた『超』の付く一流企業の社長さんだ。
彼と出会ったのはほんの3ヶ月前。
彼が私の勤める会社にやって来たのがきっかけだった。
会社では受付嬢をしている私だが、そんな私に彼の方から声を掛けてきたのだ。
『今度一緒に食事でもどうかな?』
勿論最初はからかわれているだけだと思った。
けれどその1週間後、彼は再び私の前に現れデートに誘ってきたのだ。
断れば会社の心証を悪くするかもしれない…そう思うと同時に、正直私は九条さん自身にも興味があった。
年齢は恐らく40代前半。
高そうなブランドのスーツに腕時計…けれどそのどれを取っても嫌味に見えないのは、彼の上品な振る舞いのせいだろう。
顔だってカッコ良くてさぞかしモテるに違いない。
そんな素敵な人に誘われるなら食事くらい…と、結局私は彼の申し出を受けた。
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