第1章 バニラ
『ああ~ん、イク~』
女の間抜けな声が、シーンとした室内に響いた。
動画はそこで終わって、やがて画面が黒くなって消えた。
それでもニノはそこから動く気配がない。
俺の息子ちゃんは手の中でしんなりと下を向いてしまった。
黙ってティッシュを一枚とって、先っぽをふきふきしてズボンを履いた。
勇気を出して起き上がってニノの方を見ると、黙って俺のこと睨んでた。
「俺の名前呼んでなかった?」
「はい…」
いつ入ってきたんだ…
「そんな動画見てるのに、なんで俺の名前呼んだの?」
「いや…その…」
リビングのカーテンの隙間から入ってくる陽の光で、室内はほんのりと明るい。
どうやら今日は天気がいいみたいだ。
なのに幼い顔のニノは顔を青くして、どうやら怒っている。
こんなどうしようもない状況に、俺はただ下を向いてソファに腰掛けているしかなかった。
「イッたの?」
「いや…まだ…」
「ふーん」
ちらりとニノを見ると、顔は幼いのにその表情は今現在のニノで。
とっても軽蔑を込めた目で俺を見ていた。
「あ~…あれだ。ほら、しょうがねえだろ?溜まってたし」
「溜まってたら俺でオナニーすんだ?」