第3章 アリストテレス
今でも時々、不意に思い出すことがある。
『あっ…しょぉくん…』
あの甘い声…
もう20年以上経つというのに、ほんとうに油断してると思い出しちゃうんだよな…
「イカンイカン!」
「わっ…なに急に…」
隣りに座っているのは、その声の主。
そう、松本潤だ。
「な、なんでもねえよ…」
「なんだよ、翔くんさ…たまに急に変な声出すよね」
「へっ…変な声出したのはおまえだろうが!」
「…は?」
あの頃とは違って、男臭くなって…
しかも俺よりもいかつくなった男の顔を見たら、急に素に戻った。
「な、なんでもない…早く進めて…」
「うん…」
只今、ツアーの打ち合わせ中。
今日はまだ全然話が煮詰まっていない演出部分の話し合いだったから、席順はバラバラで。
今日は俺の隣は潤だった。
「で、ソロの案なんだけど…もう固まった部分教えてくれる?」
「あーい…」
時間は深夜の22時。
いい加減もう解散したいのだが…
この男、スケジュールがキツキツで。
ドラマの撮影で北海道とか行ってるもんだし…
ただでさえ、レコーディングも進んでいないのに。
とにかく時間がないから、現時点でやれる打ち合わせはしておかねばならないのだ。