第1章 不器用な恋 (家康×舞) R18
.
「そこ、座って指診せて」
家康は、部屋に入るなり自分の文机の前に舞を座らせ、指を出すように指示した。
戸惑いながらも、差し出された白い指先。
その指先の一部が赤く腫れ、先程まで血の出ていたであろう場所は、深くはないものの、まっすぐに2センチほど切れてしまっていた。
「あんた、よくこれで大丈夫とか言ったよね。どういう神経してんの」
「っ、ごめんなさい……」
申し訳なさそうに眉を寄せる舞に、ギュッと胸が締め付けられる。
(違う。こんな顔させたいんじゃない。)
心ではそう思っていても、天邪鬼な性格が邪魔して素直に言葉が出てこない。
家康は、無言のまま静かに席を立つと、棚から軟膏を持ってきて舞の横に座った。
「指、出して」
「うん………」
家康は、落ち込んだ様子の舞の手をとり、指先に優しく塗り始めた。
「擦り傷に良く効くから、2、3日で痛みはなくなると思うけど、酷くなるようならすぐ言って」
「うん………」
しっかりと塗り込み、患部が外気に触れないよう包帯を巻いてしっかりと結ぶ。
手当が終わった後、二人の間には、暫くの沈黙が流れた。
口を開けば、また余計な事を言ってしまいそうで、口を噤む。
そんな状況にいたたまれなくなったのか、先に口を開いたのは舞だった。
「あの…家康、、有難う…」
伏し目がちに御礼を言ってくる舞。
けれど、目も合わそうとしない舞の態度に、押さえ込んでいた感情が溢れ出す。
「あんたさ、なんなの」
濁った感情に蓋をした、筈だったのに。
気づけば、舞の手を掴み、床に縫いとめていた。
.