第11章 家路
「どうだった?翔のコンクール」
店に着くなりニノに聞かれた。
「ん?良かったよ…」
「良かったのは聞かなくてもわかるよ。知りたいのは順位だろ?」
「知らね…でも、たぶん優勝したんじゃね?」
「何それ⁉まさか結果を聞かずに帰ってきたの?」
ニノが俺に詰め寄った。
「あぁ、それまでの演奏と比べ物にならなかったし
たぶんあの演奏の後じゃ、次の最後の演奏者も緊張してまともな演奏なんて出来ないよ…」
「そんな凄かったの?」
「ん…ここで弾いていたときとは桁違い…」
「そっか…」
それ以上は俺もニノも何も言葉が出なかった。
覚悟はしていた…昨日の松岡さんの様子からある程度は。
でも実際そうなってしまうと、まだ気持ちの整理がつかない。
「今日、店臨時休業にしようか…」
ニノがポツリと呟いた。
「そんな訳いかないだろ…」
前に翔とそんな会話をしたのを思い出したら、目の前がぼやけてきた。
「だよね…俺、開店準備しとくから…
智は店始まってから出てきてくれればいいよ…」
「悪いな…」
「いつもこき使っちゃってるからね
たまにはこんな日があってもいいでしょ…」
ニノの声がいくらか湿っぽかったのは突っ込まないでいてやるよ…
ニノも、俺の目から溢れた涙に気が付かないフリをしてくれたからな…