第36章 なかぬなら・・・(共通)
ことの始まりは半刻ぐらい前だったと思う。
安土城の世話役として、
文をその男に届けに行ったのだ。
男は忍に笑みを浮かべ、
文の返事を書くから、
お茶を飲んで待っていてほしいと、
忍にお茶を勧めてきたのだ。
忍はそれを断れず、
また安土の人間である男ならばと、
そのお茶を疑いもせずに飲んだのだ。
だが男は忍の信頼を裏切っていた。
男は忍に背を向けて、
文机に向かい傍目には、
文の返事を書くかのような行動をとった。
忍へお茶を飲ます口実のためだけに。
忍がお茶に口をつけた瞬間、
忍に背を向けた男の口は・・・
にやりと三日月を描いていた。