第10章 【許されざる呪文】
パーバティが眉をハの字に曲げて心配そうにラベンダーを見つめていた。ラベンダーは両手で顔を覆いながら大声で泣き叫んだ。
「私、馬鹿だったわ!」
「どうして?」
「今日が何月何日か知ってる?10月16日よ!トレローニー先生が仰ってたわ『10月16日に貴女の1番恐れている事が起こるでしょう』って!先生の言う通りだわ!!」
「でも不思議ね、貴女ウサギが死ぬことをずっと恐れていたの?」
泣きじゃくるラベンダーに、ハーマイオニーが不思議そうに聞いた。ラベンダーはしゃくりあげながら答えた。
「だっ、誰だって……自分のペットが死んじゃうんじゃないかって、不安になるでしょう?」
「それはそうだけど、ビンキーって寿命間近のウサギだったの?」
「違うわ!まだほんの2、3か月の赤ちゃんだったわ!!」
「それなのに死ぬのを恐れていたって、おかしくない?だってまだまだ元気だったんでしょう?」
ハーマイオニーが論理的に問い詰めると、ラベンダーはもう何が何だか分からなくなったのか、癇癪を起したように激しく泣きだした。
するとそこに騒ぎを聞きつけてマクゴナガル先生がやって来た。ロンはラベンダーを庇う様に立ち上がらせると、ハーマイオニーに対して捨て台詞を吐いた。
「ハーマイオニーの言う事なんて気にするなよ。人のペットの事なんて何とも思ってない奴なんだから」
ロンが冷たくそう言い放つと、ハーマイオニーは下を向いてぎゅっと拳を握りしめた。そしてどこへ行くかも告げずに、駆け足で教室を出て行ってしまった。クリスはどちらを追いかければいいか分からなかったが、取りあえずハリーはマクゴナガル先生との話があるので、クリスは一先ず先にハーマイオニーを追いかける事にした。
ハーマイオニーは『嘆きのマートル』のトイレにいた。クリスが追ってきたと分かると、顔も見ずに個室に入って鍵をかけた。
「ハーマイオニー、大丈夫か?」
「……お願い、1人にして」
「でも――」
「お願いだから……」
こんな時、かける言葉が見つからない自分が情けなかった。マートルが、いつも座っているパイプ管からスウッと飛び上がると、ハーマイオニーがいる個室に向かって「何?あんたまた泣きに来たの?」と可笑しそうに笑うので、クリスはキレて「もう1回死んで来い、このブス!!」と叫んでからトイレを出た。