第8章 【心ここにあらず】
その時の、あの黒い犬の様子を思い出してクリスは思わず笑ってしまった。あれがグリムだとしたら、なんてお粗末なんだろう。思い出し笑いをするクリスを見て、ハーマイオニーも同調した。
「ほら、クリスも言っている通り、ハリーが見たのもきっと野良犬だったのよ」
「ハリーが見たのは絶対野良犬なんかじゃない!カップの底には本当にグリムの姿があったんだ!!」
「あらそう、『ロバが見える』何て言っていた時はそう思えなかったけど?」
勢い余ってロンが立ち上がると、それに合わせてハーマイオニーも立ち上がった。2人の間で火花が散っている。とばっちりを喰らわないように、ハリーとクリスは若干席を移動した。
「トレローニー先生に占いの才能が無いって言われて、君は気に入らないんだろう?君は、なんでも1番じゃなきゃ気が済まないんだからな!」
「ッ!!――人の死を予言して楽しんでいる学科で才能が無いって言われたって結構よ!こんな学科『数占い学』に比べれば月とスッポンよ!!」
そう言い残すと、ハーマイオニーは怒って大広間を出て行ってしまった。その後姿を睨みつけながら、ロンが勢いよく席に着くとその振動でシチューの皿が揺れて中身がこぼれた。しかしロンはこぼれて付いたシチューのシミなど気にもとめず、むしろハーマイオニーの最後の言葉に引っかかっていたみたいだった。
「何が『数占い学』と比べて月とスッポンよ、だ!あいつまだあの学科受けたことないんだぜ!?」
確かにロンの言う通りだったが、それに同意するのはハーマイオニーへの友情を裏切るようなものだ。それが分かっていたので、ハリーもクリスも顔を見合わせて、何も言わずただお手上げだと肩をすくめるばかりだった。