第7章 【占い学と死神犬】
新学期早々、ディメンターに襲われるという波乱から一夜明けて、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は大広間で信じられないものを目にしていた。そう、あの超が付くほどの低血圧で夢遊病患者とも呼べるクリスが、3人よりも先にテーブルについて教科書を読んでいるのだ。ホグワーツに入って3年目だが、未だかつてこんな光景は見たことが無かった。
優雅に紅茶を飲みながら教科書を黙読しているクリスに、ロンが恐る恐る訊ねた。
「クリス……君、一晩中ここにいたの?」
「馬鹿を言うな、そんな訳ないだろう。普通に朝食の時間が始まってからここに来たんだ」
初めての事に、3人はなんだか落ち着かない様子でクリスの近くに座ると、彼女が読んでいた教科書を見て納得がいった。そう、クリスが読んでいたのは『闇の魔術に対する防衛術』の教科書だった。
「勘弁してくれよ。去年はハーマイオニーで、今年は君かよ……」
「なっ、何のことだ?」
とぼけていうクリスだったが、昨日のコンパートメントでの様子といい3人にはバレバレだった。ロンはニヤッと笑うと、クリスの背後に向かって挨拶をした。
「お早うございます、ルーピン先生」
「おっ、おは、お早う御座いますルーピン先生!」
クリスはつい反射的になってビシッと立ち上がりお辞儀をしたが、そこには誰もいなかった。騙されたと分かると、クリスのこめかみに青筋が立った。クリスはロンのネクタイを引っ張ると、右手に鋭いフォークを握りしめた。
「ウィーズリー、今ここで貴様の目玉をくり抜いてやろう」
「そんなに怒るなよ。軽いジョーク、ジョーク」
「あ、お早うございますルーピン先生」
「2度もそんな手には乗らんぞ、ハリー。貴様もロンと同じ目に――」
「やあ、お早うハリー」
背後から聞こえた優しい声に、クリスは手にしていたフォークを落とした。そしてゆっくりと振り返ると、そこには待ち焦がれていたルーピン先生の姿があった。
ルーピンはクリスと目を合わせるとニッコリ笑って「お早うクリス」と挨拶をして、教職員用のテーブルに向かって歩いて行った。クリスはロンのネクタイから手を離すと、顔を両手で覆い、ふにゃふにゃと椅子に座り込んだ。