第6章 【命短し恋せよ乙女】
クリスは瞼を閉じ、ルーピン先生の姿を思い浮かべながら、うっとりとした顔でチョコレートを大事そうに胸に抱えた。そして少しずつ大事そうにチョコレートを食べ、その度余韻に浸り、またチョコレートを食べては自分を助けてくれた時の事を思い出していた。そして少しずつ、少しずつ食べてチョコレートがキレイさっぱり無くなった頃、再びルーピン先生がコンパートメントに戻って来た。
「チョコレートを全部食べたんだね、良い子達だ。ディメンターに襲われた時はチョコレートを食べるのが一番だからね」
そう言って、ルーピン先生がふわりと笑うと、クリスは自分の体温が一気に10度くらい上がったような気がした。それだけではない、心臓の音がドキドキとはっきり自分の耳に響いてくる。こんな事産まれて初めての経験だった。
「あと10分ほどでホグワーツに着く、それまでゆっくりしていると良い」
不思議な事に、先生の声を聞いていると幸せなのに、傍にいると緊張して仕方ない。ディメンターに襲われるまでは、そんな事なかったのに。
ルーピン先生がクリスの隣に座ると、クリスはまるで背中に金属の板でも入ったかの様に背筋がピンッと伸びた。本当は先生の顔を見てお話ししたいが、言葉が出てこない上に、視線もあげられない。クリスはそのままホグワーツに着くまでずっと下を向いていた。
そしてやっと列車がホグズミード駅に到着すると、生徒たちが一斉に列車から降りてきた。その人ごみに紛れ、いつの間にかルーピン先生の姿が見えなくなってしまった。本当は助けてもらったお礼が言いたかったのに。
しょげるクリスの心の様に、天気までもが追い打ちをかける。氷のような冷たい雨が降り、横風がちょっとした嵐の様に吹きすさぶ。そんな中で、唯一明るい声がクリス達の耳に入った。
「おーい、イッチ年生はこっちだ!」
森番であり、ハリーを筆頭に4人の友達でもあるハグリッドが、毎年恒例である新入生を引率しようとして声を張り上げている。その声を聞いて、4人はハグリッドに大きく手を振った。
「おー!おめぇさん達、元気だったかー!?」
本当はハグリッドの傍に行って話がしたかったが、人ごみに押されその機会はなかった。仕方なく4人は他の生徒たちと同じように“馬なし”の馬車に乗り、ホグワーツ城へと向かった。