第32章 【幕引き】
「無実だ!でも怖かった!『例のあの人』の腹心の部下であるシリウス・ブラックをアズカバン送りにしたことで、その仲間達が私を狙っているんだと思ったんだ!!」
「貴様!よくもぬけぬけと言えたものだな!!」
ブラックが獣の様に低く唸った。その顔には憎しみと嫌悪感がありありと見て取れた。
「私がヴォルデモートの腹心の部下?私がいつ自分より力を持ち、傲慢な人間たちに対して頭を下げた?しかしピーター、よく考えればお前がスパイだと言う事を何故見抜けなかったか不思議に思うよ。お前はいつも自分より力を持つ人間にくっ付いているのが好きだったな。かつては私やリーマス、そしてジェームズだった!」
ブラックは歯噛みし、同時に自分の行いを悔やんでいるように見えた。それもそのはず、ピーターとは長い付き合いだったはずだ。それなのに相手の本質を見破ることが出来ず、挙句の果てに自分がピーターと『秘密の守人』として入れ替わらなければ、ハリーの両親は――自分の親友は死なずに済んだのだ。
「私がジェーズムとリリーにお前を『秘密の守人』に推したからこそ2人はそうしたんだ。我ながらこれこそ完璧な計画だと思ったよ、ヴォルデモートはきっと私を追ってくる、そう思った。誰もが能無しで力の無いお前を『秘密の守人』にしたとは思うはずがないと――どうだった、2人をヴォルデモートに売った時の気分は?さぞかしお前の惨めな人生の中で輝かしい時だっただろう!!」
確かに、当時『例のあの人』を敵にまわすと言う事は、即ち死を意味していた。12年間もネズミとして暮らすほどの臆病者が、はたして『例のあの人』を敵にまわすことが出来るだろうか。いや、出来ないだろう。もし出来るのならば、12年間もネズミとして暮らす理由が無い。
「あの……ルーピン先生?1つ質問しても良いですか?」
「なんだい?ハーマイオニー」
「その――スキャバーズ……じゃなかった。その人、3年間もハリーと一緒にいたんです。もし『例のあの人』の仲間なら、どうしてハリーを殺さなかったんですか?」
「その通りだ!!」
ハーマイオニーの言葉に、ピーターはまるで天の助けとでもいう様に顔を輝かせた。
「そうだとも!リーマス聞いたかい!私はこの3年間、ハリーに指一本傷つけてはいない、これが私が『例のあの人』の手下ではないと言う最大の理由だ!」