第4章 【運命の人】
「そうなんだよ、僕もそこまでなるとは思わなかったんだけど――ちょっとキレちゃって」
「でも運が良いわ、もしかしたら退校処分になっていたかもしれないのに」
「うん、それは僕も驚いたよ。でもおかげで漏れ鍋で2週間過ごせることになったんだ。その間ダイアゴン横丁に行き放題だよ」
「ハリー、喜ぶようなところじゃないわよ。ロンも笑いすぎよ」
ハーマイオニーがたしなめたが、ロンはニヤニヤと笑いが止まらなかった。確かに人が風船のようにぱんぱんに膨らんで宙を飛んでいるところを想像すると、思わず笑みがこぼれてしまう。クリスもハーマイオニーに隠れてクスクスと笑っていると、突然ハリーがアイスクリームに鼻から突っ込んだ。驚いて振り返ると、何処から出てきたのか、この2週間逃げまくっていた人物、ドラコ・マルフォイの姿がそこにあった。
「おや、誰かと思ったら“有名なハリー・ポッター”じゃないか。伯母さんを膨らませても、そのバカげた傷で処罰さえ受けなかった、英雄だ」
厭味ったらしいドラコの口調に、クリスはまるでついさっきトロールの鼻くそを食べたかの様な表情をした。
「げっ、ドラコ……」
「おやおや、僕からの誘いを断っても、ポッターからの誘いは受けるんだな、クリス。良かったなポッター。傷のおかげで魔法省大臣だけじゃなく、僕の許婚さえも思いのままって言うわけか」
「別にハリーに傷があるから一緒にいるわけじゃないぞ、私は私の意志でハリーと一緒にいるんだ」
「ふうん……これからここで父上と母上と落ち合う約束をしているんだが、父上と母上の前でもそんな口が利けるのかな、クリス?」
それを言われて、クリスはグッと押し黙った。ドラコ1人なら簡単に追っ払えるものの、マルフォイ夫妻の――特に母・ナルシッサは――笑顔でクリスの弱点を突いてくる。母親のいないクリスにとって本当の母のように接してきたナルシッサの前では、「NO」と言えなくなってしまうのだ。
「ほら、クリス。父上と母上がやって来たぞ」
ドラコが顎を向けた先には、確かにマルフォイ夫妻が並んでこちらに向かってきていた。ハリー、ロン、ハーマイオニーの後ろにひっそりと隠れたクリスだが、直ぐにマルフォイ夫妻に見つかってしまった。