第29章 【ルーピン先生の裏切り】
「ハリー、これは罠だ……あいつが……あの犬がシリウス・ブラックだったんだ!あいつは『アニメ―ガス』だったんだ!!」
その途端、扉がバタンと閉まり、振り返った時にはもう遅かった。ブラックはこちらに杖を向けていた。
「エクスペリアームス!」
3人の体は吹き飛ばされ、それぞれ持っていた杖が――クリスの召喚の杖さえも――男の手に収まった。
なすすべは無くなった。このままここで4人とも殺されてしまうのだろうか。相手は大量殺人鬼だ、4人の見習い魔法使いを殺すなど赤子の手をひねるより簡単なはずだ。ブラックは一歩一歩ハリーに近づいていった。
「思った通りだ。君なら必ず友を助けに来ると思ったよ、ハリー」
低い、かすれた声だった。アズカバンに長く居た所為で、まともな言葉をしゃべるのは久しぶりだと言うような響きを持っていた。ブラックの風貌と言い、アズカバンと言う所はこうも人間を変えてしまう所なのだろうか。
ハリーは近づいてくるブラックから3人を守る様に立ち上がった。
「近づくな!これ以上僕らに近づいたら、何をするか分からないぞ!!」
「勇ましい。友の為にそこまでするとは……。君は父親そっくりだ。君の父も友の為にそうしたに違いない、勇敢だ。教師に助けを求めなかったのもあり難い。その方がこちらもやり易くなる」
ブラックは足を止め、じっくりとハリーを見つめた。ハリーも、殺気立った顔でブラックを睨みつけている。ハリーの顔は憎しみに満ちていた。当たり前だ、許せる相手ではない。両親を裏切り、死の直接の原因を作った男なのだ。そして今度は、ハリーと一緒にロン、クリス、ハーマイオニーも殺す気だ。
だが不思議とクリスは死ぬ事が怖いとは思わなかった。だが、誰かがブラックの手によって殺されたら……そう考える方がよっぽど恐ろしかった。意を決しクリス、は立ち上がった。
「もしもハリーを殺してみろ!その時はお前の喉笛かみちぎってやるぞ!!」
「そうだ、もしハリーを殺すって言うなら、僕達が相手になるぞ!!」
ロンが、折れている足を庇いながら立ち上がった。痛みの所為か顔は青ざめ冷や汗を額いっぱいにかいている。ロンはよろめき、とっさにクリスの肩にもたれかかった。