第22章 【愚か者】
「カドガン卿、たった今グリフィンドール寮に男を1人通しましたか?」
「おお、通しましたぞ!」
それを聞いていたマクゴナガル先生と生徒達は驚きと恐怖で口がきけなかった。ロンの言っていた事は本当だったのだ。もしブラックが襲ってきたのがロンではなく自分達の寝室だったらと思うと、震えあがりそうになった。
「と、通したと?では――では合言葉は?」
「持っておりましたとも、ご婦人!」
何に気を良くしたのか分からないが、『カドガン卿』は誇らしげに言った。
「1週間分、きちんと持っておりました。小さな紙切れに合言葉を書き留めておりましたとも」
マクゴナガル先生は談話室に戻って来て、怒りを押し殺した声で皆に問い詰めた。
「誰です――誰ですか?今週の合言葉を書き留めて、その辺りに放っておいた底なしの大馬鹿者は!?」
静まり返った談話室で「ひっ」という小さな悲鳴が聞こえた。皆恐る恐るその声の方に振り向くと、頭のてっぺんからつま先まで、ガタガタと震えるネビルがゆっくりと手を上げていた。
これにより、ネビルはマクゴナガル先生にこっぴどく怒られ、今後一切ホグズミードに行くことを禁止され、罰則を与えられた。挙句の果てにはネビルに合言葉を教えてはならないと皆に言い聞かせた。
ネビルの災難はそれだけでは無かった。2日後、ネビルのおばあちゃんから真っ赤な封筒が届いた。ロンが直ちに「ネビル、逃げろ!」と言うと、ネビルは封筒を抱えて猛ダッシュで大広間を駆けていった。その後ろからスリザリン生の笑い声が追いかけた。手紙の内容は何百倍にも拡大され、廊下から「何て愚かな!この恥さらしが」と聞こえてきた。
因みに『カドガン卿』はクビになり、代わりに『太った婦人』が戻って来た。ズタズタに切り裂かれたはずの『太った婦人』の絵は見事修復されたが、その代り警護を増やすと約束させ、『太った婦人』の周りに
はいつもトロールが組になって廊下を行ったり来たりしていた。
一方、襲われたロンは、一躍時の人となった。ロンはブラックに襲われそうになった時の話しを聞かれると、勿体ぶって声を潜めながら――だが聞かれれば誰にでも――ある事ない事吹聴した。その態度だけは心配した身としては歓迎できなかったが、ロンが注目を浴びる事なんて滅多にないので、クリスはあえて何も言わなかった。