第20章 【チョコチップクッキー】
「まだ持っていてくれていたんだな」
「当たり前だ、クリスが……珍しく僕にねだった物だったからな」
ツン、と横を向いたドラコだったが、頬の辺りが微かに赤くなっている。それを見て、クリスはぷっと吹き出した。きっとドラコも、仲直りをする機会を窺っていたんだろう。しかしお互いの性格が邪魔をして、今日までかかってしまったのだ。なんて不器用な2人なんだろう。
クリスは「ほら」と言って右手を差し出した。
「くれるんだろう?あり難く貰ってやるよ」
「生意気だな、買ってもらった身のくせして」
「諦めろ、それが私だ」
クリスがニヤッと笑うと、ドラコは諦めた様にため息を吐いた。その隙に、突然ドラコは右手ではなく、クリスの左手をぐいっと強引に引っ張った。
「指輪をはめるならこっちだろう?」
そう言って、クリスの左手の薬指にサッと指輪をはめた。赤と緑の宝石がさり気無く薬指を彩る。これではまるで――
「一足早いエンゲージリングだ。ははっ!これで君はもう僕のものだ!!」
そう言うなり、ドラコはキザッたらしく左手の甲にキスをした。クリスはどうにかして指輪を外そうと躍起になっていたが、どうやっても指輪が外れない。それを見てドラコはニヤリと笑った。
「無理に外そうとすると指が千切れるぞ、簡単に外れないように粘着呪文をかけておいたんだ!安心しろ、本物を渡す時に外してあげるさ!」
「馬鹿な事言ってないで、今すぐ外せ!おいっ、待てドラコ!!」
指輪を外す、外さないで、2人は廊下と言う廊下を走り回って騒いでいた。
この馬鹿らしいが、暖かくて懐かしい友情をいつまでも大切にしたいと心の底から素直に思えた。面と向かっては絶対に言わないが、心の中でクリスはドラコに感謝していた。このかけがえのない時間をくれて、ありがとうと――。