第20章 【チョコチップクッキー】
ルーピン先生の部屋を出ると、図書館に向かう為クリスは駆け足で廊下を走った。途中、急に走ったせいで心臓が痛くなり足を止め息を整えた。
息を整えながら、ハーマイオニーになんて言おうか頭の中で色々な言葉を模索した。正直言うと、ハーマイオニーがクリスが長年欲しがっていたラジオを、バラバラにしたのにはまだ腹が立っている。でも、もう喧嘩別れしているのは嫌だ。
廊下で立ち止まっていると、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。その声の主は――最初にホグズミードに一緒に行ってから、碌に口もきいていないドラコ達だった。
クリスはさっと柱の陰に隠れた。隠れてから、自分はいったい何をしているんだと思った。ついさっき、ルーピン先生と約束したばかりではないか。『皆と仲直り』すると。クリスは緊張する心臓をおさえ、パッとドラコ達の前に飛び出た。
「ド、ドラコ……久しぶりだな」
「――クリス。いったい何の用だい?」
「お前に、少し話がある……」
ドラコは何て言うだろう。今更虫が良すぎると言うだろうか。それとも「僕も話したい事がある」と言ってくれるだろうか。クリスは緊張で心臓が張り裂けそうだった。黙ったままアイス・ブルーの瞳で見つめてくるドラコの前に、パンジー・パーキンソンが立ちふさがった。
「あら、グリフィンドールの貴女がドラコに何の用なの?」
「お前には関係ないだろう」
「あるわよ、だって私、ドラコと『同じ寮』で『友達』だもの。貴女は『違う寮』で『友達でも、許婚でもない』でしょう?」
パンジーは勝ち誇った顔で、フンッと鼻を鳴らした。確かに自分は寮も違うし、許婚も解消したくて仕方がない。だが『幼馴染』という肩書だけは残しておきたかった。
長い時間、それこそ産まれてからずっと一緒にいたのだ。そんな簡単に切れる関係ではないと、クリスの胸の奥で誰かがそう囁いた。
「確かに私たちは喧嘩もするけれど、その度に仲直りしてきたんだ。お前に何か言われる筋合いはないな、そこを退いてもらおうか」
気丈にそう言うと、パンジーは顔をくしゃりと歪ませた。そして次の言葉を言おうと口を開きかけた時、ドラコがパンジーを押しのけ、ぐいっと前に出た。