第13章 【グリフィンドール対ハッフルパフ】
クリスは今までにない程クディッチの試合にのめり込んだ。横殴りの雨が視界を邪魔しても、クリスは必死に目を開けてハリーの姿を追った。その時――先程まで煩いくらい耳をつんざく雨音が消え、突然静寂が辺りを包んだ。何故だと考える間もなくクリスは底知れぬ恐怖と、そしてまた左手首の痣が、今しがた焼き鏝を当てられたように熱と痛みを感じ始めた。
よく見ると、グラウンドに1000体近いディメンターが集まっている。その強い不快感に、クリスは吐き気と眩暈がしてロンのローブに掴まっていなければ立っていられないほどだった。
頭の中では、どこからともなく赤ん坊の泣き声が響き、頭が割れそうに痛い。それだけではない。数十人の大人が、声を揃えて何か叫んでいる。背筋は凍り付いた様に冷たいのに、手首だけは熱でただれてしまいそうだ。クリスは徐々に視界がぼやけて、意識を保っているのが困難になってきた。
「クリス、おいクリス!!」
ロンがクリスの肩を強く揺さぶり、クリスはハッと意識を取り戻した。一瞬自分は何をしているんだろと記憶が混乱してたが、やがて自分はクディッチの観戦に来ていたはずだと思い出した。そうだ、試合は――ハリーはどうなってしまったのか。
「クリス、貴女も酷い顔色よ。医務室に行きましょう」
「私も、って事は――」
「君、覚えてないのかい?ハリーが空中から地面に落っこちたんだよ」
「なん……だと」
クリスは一瞬、思考が停止した。普通あの高さから落っこちて、無事なはずがない。ロンのローブから手を離すと、クリスは膝から崩れ落ちた。咄嗟にロンがクリスの肩を支えた。
「おいおい、大丈夫か?」
「あ、ああ……」
クリスはロンに支えられたまま、医務室まで歩いていった。医務室の中はすでにグリフィンドールのチームメイトが、ハリーのベッドの脇に立っていた。マダム・ポンフリーはクリスの顔色を見ると、急いで大きなチョコレートを持って来てくれた。
クリスは自分の事より、ハリーの事のほうが心配だった。ハリーの顔色は青白く、微かに息をしていると分からないと、まるで死人の様だった。クリスが右手でハリーの頬に手をやると、氷のように冷たくなっていた。