第3章 そして、春
今日から高校生。グレーに深いグリーンのラインが入ったブレザーに、真っ赤なネクタイ。着慣れない制服に身を包み、せめて鞄は慣れたものを、と中学生のころと同じリュックを背負う。鏡の前に立ち、身だしなみをチェックする。鏡越しの自分を見て、改めて雄英の生徒なんだと実感する。
「おお、!似合っているじゃないかっ!!」
『ありがとう!パパも黄色いスーツ似合ってるよ』
「はははっ!そうだろう!」
あれからオールマイト…パパは私のことを名前で呼ぶようになった。最初は私も呼ばれ慣れなくて変な感じがしたけど、今ではもう呼び呼ばれ慣れている。
「では私は先に行く。何度も言うが、学校内では私も一教員だ。くれぐれもパパと呼ぶんじゃないぞ」
『き、気をつけるっ!……って、私も急がなくちゃ』
「また後で会おう」
『はーい。いってらっしゃーい!』
もう一度持ち物を確認する。ティッシュ、ハンカチOK。今日の予定を何も聞かされていないので、特別な持ち物はないがそれでも忘れ物がないようにしないと。
机の上に置いてある両親と3人で写っている写真を見る。まだ何も知らず幸せそうに笑っている私がそこにいた。
『お父さん、お母さん、行ってきます』
桜吹雪に包まれながら高校生活に思いを馳せていると、あっという間に雄英高校に到着した。パパが掛け合ってくれて、特別枠として面接をしに以前来たことがあるけど、あの時とはまた違って見えるのが不思議だ。校門というには大袈裟なゲートをくぐり、胸を高鳴らせる。
デクとかっちゃんも合格していることは知ってるけど、実はあの2人にはまだ言っていない。2人とも一般入試で高い倍率の中生き残り、努力して雄英に入ったのに、私は面接ひとつでいとも簡単に合格したのだ。彼らに対する後ろめたさからなかなか言い出せずに、結局入学当日を迎えてしまった。かっちゃんとは相変わらずで、私の個性のことすら打ち明けられていなかった。
『お、おはようございます…?』
広い校内をウロウロしながら、やっとの思いでクラスにたどり着く。教室に入ると黄色い寝袋から、なんだかくたびれた人が出てきているところだった。
「え………?えっ?」
「……っ!??」
『あ、あははは。おはよう…』
「ギリギリだぞ。君もこれに着替えてグラウンド集合ね」