第8章 Belief
「ごめんなさい。見失っちゃって、それしか方法が浮かばなくて……」
「いや、俺も連絡先聞いておけばよかったね。ごめん。とにかく無事でよかったよ!──って、えっ待って、ヒーロー殺し……だよね!?ど、どういうこと?」
ケンは視界に入ったヴィランに気がつくと驚き、私の肩をゆさぶった。私はそれに驚いて短い悲鳴を上げてしまったけれど、特に暴走することもなく済んだ。
軽く説明をしながら通りに出ると、緑谷くんの職場体験先のヒーロー、グラントリノさんが合流し他のヒーローの応援も到着した。
「二人とも……僕のせいで傷を負わせた。本当に、すまなかった……。何も……見えなく、なってしまっていた……」
深く頭を下げる飯田くん。その瞳には涙が浮かんでいるようだった。
緑谷くんは静かに彼に謝罪した。私も飯田くんの様子を気にかけるばかりで何もしてあげられなかった。ごめんね、と肩を落とすと飯田くんは辛そうな表情で目を閉じた。
「しっかりしてくれよ、委員長だろ」
「……うん」
飯田くんは涙を拭うとまた顔を上げた。
その時──
「伏せろ!!」
グラントリノさんが大声で叫ぶ。突如空から現れた翼を持ったヴィラン、脳無が緑谷くんの背中を掴んだ。あまりの速さに誰もが対応出来ないでいた。ただ一人を除いては。
「贋物が蔓延るこの社会も、徒に“力”を振り撒く犯罪者も、粛清対象だ……」
ステインは息を吐きながらナイフで脳無の脳天を突き刺し、緑谷くんを抱えて着地した。縛っていたはずなのに、まだナイフを隠し持っていたんだ……!
ヴィランは倒され、緑谷くんは助けられた。彼は本当に、自身の信念によって動いているんだ。
「全ては正しき社会の為に」
ステインが立ち上がると、エンデヴァーさんが通りの角から顔を出した。ステインはゆらりと体を揺らしエンデヴァーさんを見据えた。
「贋物……正さねば……誰かが血に染まらなければ……!“ヒーロー”を取り戻さねば!」
私たちは身構える。ステインはここにいるヒーローと戦うつもりだ。ステインの殺気に肌が粟立つ。
「俺を殺していいのは本物の英雄──オールマイト──だけだ!!」
唸るような彼の気迫。
腰が抜ける。誰もが動けずにいた。
血なんて舐められていないのに、動けなかった。
ステインは立ったまま気を失う。その信念は最後まで折れることは無かった。
