第8章 Belief
「さっきから明らかに様相が変わった。奴も焦ってる」
確かに、ステインの動きはさっきよりも素早く、的確に飯田くんとネイティブさんを狙いに来ている。
飯田くんに下がって、と言いたいところだが、そうする余裕が無いことは見て取れた。
轟くんは地を凍らせ、飛び回るステインの足場を崩すように氷の大槍を突き上げる。
「っ気をつけて!」
飛んできたナイフを腕から伸ばした綿で弾く。ナイフは轟くんに当たる前に地に落ちた。
「わりぃ!助かった」
息付く間もなく轟くんは右の氷を収め、左の炎で応戦した。
防げた事を安堵してる余裕すらない。いつどこで仕掛けてくるのか読めないんだ。
この人はUSJの時の敵なんか比にならない程、強い。
飯田くんは轟くんに脚を凍らせるよう頼む。その一瞬の隙に、小型のナイフが轟くんの肩目掛けて投擲された。飯田くんは咄嗟にそれを庇い、ナイフは彼の腕を捉えた。
──まずい……!
よろめかせてから追撃し、“本命”を確実に当てるつもりだ。
「飯田くんっ!!」
「邪魔だ!」
即座に投げられたサバイバルナイフが飯田くんの腕に突き刺さった。倒れ込んだ飯田くんの腕からは血が滴る。
轟くんは苦々しい表情を浮かべながらも彼のふくらはぎを凍らせた。排気筒が黒い煙を吐く。
飯田くんは痛みで四肢を震わせながら、腕に刺さったナイフを咥え引き抜いた。
彼が立ち上がる時、緑谷くんの足が微かに動いたのが見えた。
二人ともやる気だ……!
今この場で私だけが怪我を厭わず自由に動けるんだ。何か私に出来ることがあるはず。
もう三人にこれ以上傷を負わせるなんて嫌だ──!
私は両手を地に翳して背後のネイティブさんを囲うように綿を生み出す。ドーム状にベールを広げてそこから無数の糸を漂わせた。
ネイティブさんが動けるようになったらすぐに対処出来るようにベールは薄くした。これなら外の様子が見えるから。
手に絡まる糸が離れるまで、これに繋がる全ての綿は私の体の一部だ。綿の防壁を保ったまま、無数の糸を操る。
轟くんの炎を避けて飛び上がったステイン。
そのタイミングで、示し合わせていたかのように飯田くんが跳躍し、緑谷くんが壁を蹴り上空へ駆けた。