第8章 Belief
どうか、どうか無事でいて……!
心の中で何度も唱えながら路地を駆ける。人の声、それから物音が聞こえる。打撃音、それと何かが砕けるような音。
交戦している……?嫌な汗が流れるのを感じた。急いで音の方へと向かう。細道を曲がってすぐ、私は目の前の光景に血の気が引いた。
「言われたことは無いか。“個性”にかまけて挙動が大雑把だと!」
赤い襟巻、沢山の刃物。その風貌はニュースで取り上げられていたヒーロー殺しの特徴そのままだった。
そしてそこには、氷壁と火炎を繰り出す背中と、横たわる緑色。それに打ち震える白い鎧。私の大切な友人達の姿があった。
緑谷くんの切迫した声が響く。
「轟くん!」
彼の叫びで忘れていた呼吸を取り戻して、無我夢中で声を上げた。
背中から溢れた綿は高波の如く轟くんとヒーロー殺し──ステインに向かっていく。ステインは轟くんの懐に入り刀を突きつける。
だめ、間に合わない……!
目を閉じようとしたその時だった。足元に横たわっていた飯田くんが腕を震わせながら立ち上がった。
エンジン音が微かに響く。飯田くんの瞳には炎が映り、橙の光を灯していた。
そして、その瞬間、彼の姿は視界から消えた。
「レシプロ……バースト!!」
飯田くんは刀を蹴り上げ、ステインに回し蹴りを食らわせた。
目で追えない程の速さにステインは対応しきれず吹き飛んだが、受け身を取り地を滑った。
「飯田くん!解けたんだね!そ、それに……!」
「綿世!?なんでお前まで……」
「メール見た。遅れてごめんね。みんな、こんな…ううん、話は後だね」
みんな傷だらけで、それにコスチュームは赤く染まっている。所々血溜まりを残す地面からも、ぎりぎりの戦闘が行われていることが窺えた。
胸に重苦しい痛みがのしかかる。もっと早く来れていたら、ここまで怪我をせずに済んだかもしれないのに。
今は、後悔してる暇はない。
拳を握り直して敵に目を向けた。
「奴は血の経口摂取で相手の動きを奪う。持続時間は大して長くねぇが……気をつけろ」
「了解。援護します!」
背中から生み出した綿を左右に分断させる。その綿で倒れ込む一人のヒーローを包み、私の背後へと移動させた。