第7章 Catalyst
まあるい形の頭。近くで見る赤と白はショートケーキみたい。
ヒーロー名ぴったりだな、なんて考えてたら緊張よりも可愛いって気持ちのが大きくなって、よしよしと犬を撫でるみたいにその二色をかき混ぜた。
思いのほか余裕だったから自分でも拍子抜けしてしまう。
それにしても。髪、さらさらで綺麗だなぁ。赤い髪を指で掬って後ろに流したら微かに耳の縁に触れた。
轟くんは頭を差し出したまま上目遣いに私の顔を見た。
「……もういいか」
「あ、うん!」
名残惜しさを感じながらも慌てて轟くんの頭から手を下ろしてお礼を述べた。轟くんは赤い前髪をつまんでどこか気まずそうだ。
私まで気まずさを覚えて俯きながら控えめに訊ねた。
「あの……もう少し試してもいい?」
「ああ」
「嫌だったら言ってね」
怖々と、ほんの少しだけ、指先を彼の腕に触れさせる。
どきどきするけれど、それだけだ。
掌でそうっと撫でてみたら、思ったよりずっと筋肉質で硬かった。勢いに任せて轟くんの胸やお腹をぺたぺたと触ってみる。
「おお……大丈夫だ」
「肌に直接触らなきゃ意味無いんじゃないか」
「いや!それはハードル高いので、いいです」
真面目な顔でわざわざお腹を出そうとするから、慌ててその手を押さえて阻止した。
「もし全裸の男が助けを求めてきたら?」
「まず綿でくるむから、大丈夫!」
「そうか、それもそうだな」
全裸の男性が助けを求める状況って相当稀じゃない?と苦笑する。ヴィランならありそうだけど。
何はともあれ、自分から触れるのは大丈夫だった。それが確認できたのは大きな収穫だ。
轟くんに特訓に応じて貰えて本当に良かった。他の人だったらきっとこんなに順調にいかなかっただろう。
「では、どこからでも触ってください」
「どこでもいいのか?」
「うん。任せる」
轟くんは口元に手を当てて少々考えてから、私の右手を取って両手で包んだ。
彼の手は左右で温度が違う。右手は私より冷たくて、左は私より温かい。
轟くんは私の表情を窺いながら、手を解いて腕に触れていく。
それから、抱き寄せるように腰に手を回して背中に触れた。