第7章 Catalyst
一限終了のチャイムの音が響く。
私は机の上を片付けて、次の授業の用意をした。
「まりちゃん!職場体験の事務所決まった?」
「うん!ヒーローヤマゴンのところにしたよ」
「ヤマゴン……聞いたことあるような、無いような……」
「お茶子ちゃんはガンヘッドのところだよね」
「そうだよ!お互いがんばろ!」
お茶子ちゃんと二人で笑い合う。ふとお茶子ちゃんの前の席の飯田くんを見れば、その目はどこか遠くを見据えていた。
「飯田くんはどこにしたの?」
いても立ってもいられなくなって問いかけると、飯田くんはぱっと顔を上げ、貼り付けたようないつもの表情で答えた。
「俺はノーマルヒーローマニュアルの事務所に決めたよ」
マニュアル──東京の、それも保須市に事務所を構えるヒーローだ。世間はヒーロー殺し、ステインの話題で持ち切り。インゲニウムの次に狙われるヒーローは誰かという記事に載っていた。
飯田くんは保須に行き、ステインを追う気だろうか。不安を感じ覗き見た彼の瞳の色はよく知ったものだった。
「ほら、そろそろ授業が始まるぞ!席に着こう」
「……うん」
インゲニウムはヒーロー活動が出来ない程の重症らしい。胸にずしん、と重いものがのしかかる。
私から飯田くんにかける言葉は、何も見つからなくて。小さく頷いて席に戻った。
*
「あ!爆豪くんベストジーニストのとこなんだね」
「うっせえ。見んな」
昼休み。職場体験の希望届けを職員室に出しに行く途中、爆豪くんと一緒になった。ちらりと見えた用紙には私が個性柄憧れてるヒーロー事務所の名が書かれていた。
ベストジーニストはNo.4ヒーローだ。
繊維を操る個性……その素早く繊細な技術は本当に凄い。私の綿だって繊維だし、彼のように操れるようになれたらなと思う。
それに彼の個性で私の綿が操れるのかもちょっと興味があった。
「でも爆豪くんの雰囲気とちょっと違うような?もっと激しい感じの所に行くのかと思ってたよ」
「馬鹿にしてんのか?あぁ!?」
「ち、違うよ。ベストジーニストってほら、きっちりしてるから……」
「はっ俺だってきっちりしとるわ」
「うーん……」
「何だその返事は。舐めとんのか」
怒った口調だけど今日の彼は落ち着いている。私は顔色を窺いながら、爆豪くんから二歩離れた隣を歩いた。