第10章 Infatuate
私が問題を解くのを待つ間、轟くんも横で一緒に同じ問題を解いている。大体先に解き終わるから、そうすると私のノートに目を落としたり、教科書を捲ったりしていた。
「ねぇ、ここ、答えが合わないの何でだろう」
解けたと思って答え合わせをしてみたけれど何故か違う。
数学の難しい所は、間違いを見つけるのが大変なところじゃないだろうか。
どうしてそうなるのか、答案に解説は無く私の疑問には答えてくれない。轟くんは私のノートを見つめて、それから途中の式を指差した。
「ここだな。わかるか」
「あっ……そっか!」
下に式を書き直す。指摘されたところを直すと答案の通りの解になった。
「ありがとー出来たよ」
「余裕だな。次、二次関数か」
「うん。この文章問題かな」
教科書の付箋のページを開くと轟くんはすらすらとノートに式を立てた。轟くんのノートを覗くと、もうグラフを描き始めていて思わず目を丸くした。やっぱりすごいなぁ。
「ねえここ、どうしてこう、なるの」
ぱっと顔を上げて聞こうとしたら思いのほか轟くんの顔が近くにあって固まってしまう。それは彼も同じようで、私の顔を見つめて「お」とだけ零した。
「ち、近いね。ごめんね」
「今更だろ」
「そ……」
それもそうだけど、と返そうとしたんだと思う。
唇の感触が脳裏に浮かぶ。その時轟くんが頬に触れたから、驚いて紡ごうとした言葉を飲み込んでしまった。
「轟くん……どしたの」
「すぐ赤くなるよな」
質問の答えになってない。
隙あらばこうして触れてくるのは、もう癖なのかな。私は恥ずかしさを誤魔化すように目を逸らし口を尖らせた。
「早く続き教えてください」
轟くんの手を頬から退かした。それなのに、流れるような動きで私の手を捕らえて指を絡めてくる。
轟くんはその状態でノートの式を指し示し、横にさらさらと詳しく書き記した。
まさかこの状態で勉強続行するの。繋がれた手は轟くんの膝に置かれている。密着した体を離そうと身動ぎしたけどあまり意味をなさなかった。