第10章 Infatuate
職場体験を終え、帰宅した翌日。
休む間もなく通常の学校生活が再開した。
誰ひとり欠けること無く登校していることにほっと息をついた。職場体験後のみんなの様子はいつも通りだったり、いつもとかなり違ったり……。
「爆豪くん、随分落ち着いた、ね?」
「あぁ!?てめっクソなんであん時言わんかった!!」
「ひゃあ何のこと!?超怖い爆豪くん」
爆豪くんのつんつん髪が丸く落ち着いていて、どんな心境の変化かと恐る恐る声をかけたら胸ぐらを掴まれた。
迫りくるつり上がった目。冷や汗が滲む。いつ見てもこの目は怖い。
私は視線を逸らして彼の手を剥がそうと両手で押さえた。
「知ってたら他んとこにしたわ!!」
苛立ちをそのままぶつけるように乱雑に私から手を離した爆豪くん。職場体験で何かあったのかな……?
「その髪型もいいと思うよ?なんか、証明写真の見本っぽくて」
褒めたつもりだったのに、切島くんと瀬呂くんが横で大笑いする。なんだその髪型とか、8:2坊やとか煽るからみるみるうちに爆豪くんの怒りゲージが上がっていった。
ついにゲージを振り切って、同時に彼の髪も爆発して元に戻った。
「まりちゃん、襟よれてるわ。ついでにネクタイも」
「あっ、ありがと。梅雨ちゃん」
さっきのでくしゃくしゃになってしまった襟とネクタイを、梅雨ちゃんが慣れた手つきで直してくれた。
照れながらお礼を言うと梅雨ちゃんはいいのよ、と笑った。
それから職場体験でのことを聞いたり話したりした。中でもお茶子ちゃんの変貌ぶりには驚いた。
バトルヒーローの所で何があったんだろう?
私達が話していると、上鳴くんが軽い調子でステインの一件の話題を持ち出した。誰が撮影していたのか、ステインの最後を映した動画が出回っている。
あの騒動の中どうやって撮影したのだろう。今も尚、アップされてはすぐ削除……といういたちごっこが行われている。
上鳴くんもそれを見たようで、彼はステインの執念を呈した姿をかっこいいと言った。
あの場に居た私はかっこいいだなんて到底思えなかった。
彼の刃物の如く突き刺さる執念に、恐怖を感じるばかりだった。
世間では上鳴くんのように捉える人が大勢いる。けれど、ステインのやり方は間違ってるんだ。
飯田くんは決意を込めた眼差しで前を見据え、力強く掌を掲げた。
