第9章 Heal
それから保須にいた理由や、避難誘導に当たっていた事、ヤマゴンとの稽古の事などを話した。
「あのケンって人は……」
「ケンは私のせいで怒られちゃったみたいで……事前に連絡先聞いておけばよかったよ」
ケンなら私より早く現場に辿り着けただろうし、そうしたらみんなの怪我も軽く済んだかもしれない。悔やんでも仕方ないってわかってるけど、思わずにはいられなかった。
ふと轟くんの表情が険しいことに気がつく。
「どうかした?」
「いや、なんか……モヤモヤした」
「大丈夫?看護師さん呼ぶ?」
具合が悪いのだろうか。
そっと轟くんの背中を撫でて、そろそろ戻ろうかと提案したけれど轟くんはむすっとした顔で拒否した。
顔色を窺うと、じいっと見返されて私はやや下に視線を逸らした。
「な、なに?」
「本当に俺のこと好きなのか?」
「ふおえっ!?」
突然、なんで、どうして!?
慌てふためいて変な声が出る。今の会話のどこにそんな要素が?
自分の顔が真っ赤になってるって事だけは、はっきりとわかった。
なんて返したらいいのだろう。
以前の私ならなんて事ない顔で好きだよ、って言ってたと思う。
けど、今の私は違った。轟くんに対して恋愛感情を持っているかもしれないって思ったら、その二文字が言えなくて動揺してしまった。
「なん、で?」
絞り出した声でぎこちなく問い返した。
「綿世が電話で言ったんだろ?」
「わ、私が!?」
「覚えてないのか」
「ないです……」
轟くんは一言、そうか、と言って私から目を逸らした。
私何を言ったの?確かにあの時眠くて途中でぼーっとしてた気がする。いくら振り返ってもなんにも思い出せない。