第9章 光と影、そして闇
「皆、準備はできてるか?もうじき入場だ!!」
飯田の言葉には、誰も耳を貸さない。
…通常運転である。
「コスチューム着たかったなー」
「公平を期すため、着用不可なんだよ」
クラスメイトたちの会話に、終綴はだからなのかと納得する。
──私は、体操服で助かったけどね。
──あの格好、動きづらいし。
ならばなぜコスチュームがスーツなのだとツッこむ人もいるだろうが、心の声なので誰も何も言うことはなかった。
「緑谷」
そんな中、緊張した様子の緑谷に、冷たい目をした轟が話しかけた。
親しい雰囲気ではない。
「轟くん……何?」
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
唐突な発言に、ビクリと緑谷は震わせながらも頷いた。
「うっうん…」
「おまえ、オールマイトに目をかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねえが…お前には勝つぞ」
紛れもない勝利宣言。
クラスはピリッと空気が固まった。
「急に喧嘩腰でどうした!?
直前にやめろって…」
人の良い切島は仲裁(?)に入ろうとするが、轟はその手を振り払う。
「仲良しごっこじゃねぇんだ、何だって良いだろ…おまえもだ、依田」
冷たく燃える瞳が、こちらを射抜いた。
傍観に徹していたかったのに、と終綴はうんざりした。
──あんまり目立ちたくはないんだけどなぁ。
──目立たなくちゃいけないんだけど。
やはり矛盾したことを思い、へらへらっと終綴は笑う。
「私には1位なんて無理だよ!!
ほら、もっと気楽にいこう?」
このピリッとした空気は、どうも苦手だ。
誰もが真剣にならざるを得ないこの空気、素の自分が見透かされてしまいそうで怖いのだ。
しかし轟は、へらっと笑う終綴に誤魔化されてはくれなかった。
「個性把握テストでも実技入試でも1位で、戦闘訓練で俺はお前に負けてる。オールマイトもおまえを特別枠として見てる節があった。
………借りは返すぞ」
家族(のうち1人)が聞けば泣いて喜びそうな台詞だが、あいにく終綴は戦闘狂ではない。
1位に固執するつもりもないし、無駄に労力を使うのは好きじゃないのだ。