第3章 缶
「ただいま、腹減ったー」
「お帰りなさい」
夕飯の準備をしていたら、彼が帰ってきた。
ご飯をよそって食卓に並べる。彼は無言で食事を始めた。
何か仕事でトラブルでもあったのだろう。本当に大変な時は何も言わない。彼はいつもそうだった。
「しゅうくん、あのね」
「なんだ」
「今日のカレイの煮付け…上手くできたと思わない?」
「オレはもうちょっと薄味の方が好きだな」
ああ…そう。
食後にリンゴの切ったのを出したら、彼は何も言わずにムシャムシャ食べた。
黄桃缶は戸棚の中にあったけれど、それを出す気にはなれなかった。
夜。そろそろ寝る準備を…と思っていたら、彼に手を引かれた。
「なに?…きゃっ!」
突如押し倒され、貪るようにキスをされた。
彼の荒い息づかいが耳に響く。大きな手で頭を固定されて、彼の唾液を流し込まれ、口の中が彼でいっぱいになった。
ゴクリと音を立ててそれを飲み干すと、彼は満足そうに己の唇を舐めた。