第14章 告白と小さなお別れ
何か甲高い音が、部屋の扉の向こうから聞こえてきた。
『!』
それは"音"というより、"音色"と言い表す方が正しい。
それは段々と誇張していき、にも関らず音一つ一つの優雅さはさらに洗練されていった。
川の水の流れを絶やさず、海へと紡いでいく力強さとそんな自然を連想させるような雄大さ。
扉越しなのに、はっきりと分かる。
承太郎と花京院の感性を刺激し、2人はその曲名と奏者の名前をパッと思い付いた。
(("カノン"!))
しかもこの弾き方は、間違いない。由来だ。
二人は顔を見合わせた。
「見に行くかい?」
花京院がそう聞くと、承太郎は返事をする代わりに、無言でベッドから腰を上げた。
花京院はニッコリと笑い、扉を開けて下の階にあるピアノルームへ先導する。
「そうだ。今の内にサインでも貰っておけばいいんじゃあないか?サインくらい彼女だって、お安い御用だろう?」
「女の子に告白してこいよ〜」と言う男子高校生のようなノリがそこにはあった。
承太郎は茶化されることに腹を立つわけでもなく、ただ静かにこう言った。
「………いや、
・・
今はもらわねえ」
2人は廊下と階段を通じて、フロントから歩いてすぐの場所にあるラウンジに着いた。
そこにはもう、ギャラリーができていた。
花京院と正太郎の大柄な体格なら、人混みなど造作も無かった。
「やっぱり、あそこにいた」
花京院が指差したところには、凛としてピアノを弾きこなす由来の姿があった。
背筋は真っ直ぐしており、ピアノと彼女の境界線を中心に、音楽の世界が広がっていた。
周りでわだかまる聴衆は、宿泊客だけでなく、音色に惹かれてホテルに入ってきた部外者もいた。
たった17歳で、しかも片目のハンデを諸共にしない鮮やかなるピアニスト。
地元の記者らしき中年の男が、ピアノの演奏に夢中になっている由来に向けて、シャッターを押していた。
「ちょっと、そこの君!カメラは遠慮してくれないか?あれはワシらの連れで、勝手に撮られるのは困るんじゃ」
カメラマンに気付いたジョセフが、人混みの中から現れて、男に注意しているのが見えた。