第8章 雪解け
周りの雪が、氷が溶けていく。
太陽の熱でではない。私の氷は普通とは違って、簡単には溶けない。
でも、その氷が溶けるということは……言うまでもない。
今の私がこれからどうなるのか、私が一番よく知っている。
敵が私の足を狙って撃ったのは、動きを封じてスタンドDISCを奪い息の根を止めるため。
もし銃口がこちらに向けられているのに気付いたとしても、スタンドの大部分をすでに奪われ、さらに腕の刺青の呪いで弱っているから、避けられなかっただろう…
もうこうやって物事を考えられるのも、残り僅かだ…
「正直に言って、お前をそんな無様に死なせるのは不本意だった。だが、裏切り者の処分には妥当か」
警察官の男はインディラの頭からDISCを抜き取り、計2枚のDISCを持っていた。
横向きで倒れていた由来はそれを虚ろな目で見ていた。
最後の1枚を奪われた。
彼女の中にもうホワイトシャドウは存在しない。
薄れていく意識の中で、男の声が聞こえてきた。
「俺のミスばかりをしているクソ生意気な上司をようやく殺せた。クククッ、これで俺は昇進できる…」
全く関係のない話をしているように聞こえた。
(上司?さっき殺したもう片方の警察官のこと?)
え…待って……
2年前のあの男は一緒にいた女性に言った。
『君は僕の“願い”そのものだもの 』と。
インディラは言った。
『ようやく足が治ったんだよ。私の“願い”が叶ったんだ』と。
そしてこうも言った。
『そのために私は契約したんだ。“ウォンテッド”と』と。
次々と入れ替わる化け物のスタンド使い。
“願い”を叶えた人達は皆、腕に刺青が現れスタンド使いになる。
由来は自分の腕を僅かに残っている力で握った。
(私の腕にも、彼らと同じ物を付けられた。そして言われた)
『DIOに忠誠を誓うことを強く
・・・
願えば、その呪いは消える。お前は自動的にDIOの元へ行くことになる』
願い。“ウォンテッド”(wanted)。
つまり…敵スタンドの…能力は……
「即死には至らないが、スタンドを抜かれたお前はもうじき死ぬ。その前に、何か言い残すことはあるか?それくらいは聞いてやる」
あと数秒の命かもしれない。それでも寿命が縮む覚悟で、死にゆく体に鞭打って声を張った。
「……シロを…返しなさいッ!」