第1章 序章
とても薄暗く、閉塞感で息が詰まりそうな怪しげな場所。
その暗闇の中…
ザァクンッ!
「……え?」
女は少しの時間差もない一瞬で、左肩に重傷を負った。
それは心臓にまで達するのに十分なほど深く、致命傷だった。
明らかに、もう助からない。
カラァンッ バタンッ!
血塗られたナイフと一緒に地面に投げ出され、仰向けに倒れる。
死よりも残酷な苦痛。それから逃れようと本能的に、叫び声を上げる。
血が溢れる肩をグッと抑えても、言うことを聞いてくれない。
致死量を超えた血がただれた手の平を真っ赤に染めあげる。
床を伝って広がる赤い液体は、足元まで広がり、頭皮にまで染み付く感覚にぞっとした。
周りを見ても、早く息絶えた仲間たちの屍だけ。もうすぐ自分も、その内の1人になるのだ。
絶望以外何ものもない。
断末魔の叫びに、無慈悲な魔の手が襲い掛かる。
もうこれ以上声を上げることは出来ない。もう死ぬことを悟った。
涙ぐんだ"誰か"が、恐怖に満ちた表情で、必死に訴える。
「違う…こん…な……こんな結末…望んだわけじゃあないッ!」
そして、"また違う誰か"が、悲しみに満ちた表情で、必死に訴える。
「待って…頼む。もう…これ以上……私を…た…」
力を振り絞って、血に染まった手を伸ばしたが……
〈日本〉
ここはとある街のとある屋敷のとある朝。
その立派な屋敷には『空條』と書かれた表札が飾られてる。
ガラガラ
玄関が開き、家内から現れたのは、背が高く体格がいい男子高校生。
イギリス系アメリカ人の母親に呼び止められると、頬にいってらっしゃいのキスをされた。
「いい加減子離れしろ」
「は~い。いってらっしゃい」
手を振って送り迎えされながら、ようやく通学路は足を運ぶ。
「やれやれだぜ」
学生帽がアイデンティティのその男の名は、空条承太郎。