第31章 サクラサク*宮地*
「…合格祝いやるよ。」
「え!?そんな、いいですよ!来てくれただけでも嬉しいのに…。」
「黙ってもらっとけ。轢くぞ。…目、瞑ってろ。」
物騒な言葉を口にしているのに、先輩はふっと柔らかく笑っていた。
がさがさと何かを取り出す音が聞こえてきて、そっと左手を持ち上げられた。
「そのまま動かすなよ。」
すると手に何か冷たい感触が通り、手首に少し重みを感じた。
開けてもいい、と許可が出たので、目を開けて左手首に視線を落とすと、文字盤がピンクの銀色の腕時計が付けられていた。
「…!これ…。」
「大学生だと今よりも自分で時間管理しないといけないしな。…気に入らなきゃしまっとけ。」
「そんなことするわけないじゃないですか!…ありがとうございます。」
今日合格発表だったのに、まさか会いに来てくれて、贈り物までしてもらえるなんて思ってもみなかった。
左腕にきらりと光る時計を眺める度に、私は顔を緩ませてしまった。
「…これ用意してくれていたんですか?」
ちらりと先輩の顔を見やれば、少し照れくさそうに目を逸らして呟いた。
「…信じてるって言っただろ。」
どうして先輩は私がその時に欲しい言葉をくれるんだろう。
その感謝の気持ちのお返しをするにはどうしたらいいんだろう。
想いを巡らせるよりも先に体が勝手に動いていて、今度は自分から先輩に抱きついた。
「先輩、ありがとうございます。…大好きです。」
恥ずかしくて先輩の顔を見れなかったのが逆に良かったのか、ストレートに今の自分の気持ちを伝えられた。
「…、もう一回目瞑れ。」
反応が見たかったのにまた目を閉じると、頬に先輩の手の温もりを感じて、次に唇に柔らかな感触と温もりを感じた。
唇が離れて目を開くとまだ先輩の顔が間近にあって、私にしか聞こえないほどの大きさで声が聞こえた。
「…そんなの知ってる。…一年待ってたっつーの。」
私がそれを心待にしていたように、先輩も待ってくれていた。
桜咲く4月には、前よりももっと近くにお互いを感じられるはず。