第8章 二言はなし
「それよりもさっきのはなんだ。」
「……私は零とは、付き合ってませんよ。」
少しだけ意地悪してみた。騙していたことにお返しだ!
「さっきまでときめいた。なんて言っていた奴が何をいう。」と言われたが無視して、スマホを充電器に差し込む。
「安室透も降谷零も同一人物だ。」
「それでも、私は零とは付き合ってません。安室さんとも別れているはず……だと思います。」
「……はぁ。」
自然消滅とは、この事だろう。好意があるとは言え、まだ騙しているんではないのか。という気持ちもあって何だかふわふわとしている。
私の近くまできて、目線を合わせるとニコッと微笑まれた。
「……僕は、別れたなんて思っていないのですが。」
完全に安室透だった。顔は同じだけども、表情は違うのでさすが探偵だな。と思いながらもほっぺをむゆっと引っ張る。肌綺麗だな本当に!
「私も好きですよ、でも、安室さんとは自然消滅というものをしたと思っていたのですが。それともしも、安室さんと付き合っていたら零とも付き合っていることになるんでしょうか?」
「なりますね。さっきも言った通りに同一人物ですので。」
「……私、体ボロボロなんですけれどそれでも好きでいてくれますか?」
切り傷やもうすぐ消えそうな青タンが体中に駆けめぐっている。青タンは消えそうだから良い、でも、切り傷は消えもしないで残るだろう。一生、それと暮していかなければならない。
昔、元彼が言っていた。『お前の傷見たら、男逃げていくぞ。』なんてね。そんな傷をつけたのはあなたなのに。と思っていても言えなかった。
「そんなことで逃げる男だと思われているのか俺は。」
「だ、だって、ハニートラップしていたじゃないですか!」
「それはそれだ。」
それはそれって。なんて言う言いぐさ。強引なんだよな、降谷零は。ほっぺから手を離し、座り直す。
少しだけ距離を詰めると肩と肩がぶつかり、零はびっくりしたように私を見た。
「男には、二言はない。と聞きますので今のところは信じます。」
「ははっ、なんで上から目線なんだ。……必ずしも、約束は守りますね。雪花さん。」
頭に頭を乗せられる。それでも嫌な気はしなく、逆に嬉しいという気持ちが出ていた。