第8章 犬猿の仲
『ヴィラン名:エンプレス。個性:絶対王政』
突然、シェイドが機械的に話し出した。
『彼女が出した食べ物を食べた者は、何者かの手によって血を流すまでどんな命令もこなす下僕となる』
言うまでもなく、拘束されている敵の情報である。
『この世に生を受けてから106人殺し、どれも個性を使った大量虐殺。初めての殺人は10歳の頃。個性をクラスメイトに馬鹿にされ批判され、その逆恨みで彼らに水筒の茶を全員に無理矢理飲ませ、事故死又は自殺させた。その数、32人。以降も同様の動機で殺人を繰り返す』
廊下が静まり返った。遠くから車の音が聞こえる。
『全員同時には殺さず、各所で事故に見せかけた自殺をさせ、かかった時間はたったの2ヶ月。教室に殆ど誰もいなくなった頃に進級し、エンプレスは疑われる事なく小学校を卒業する。そう出来たのは全て個性のお陰である』
敵……エンプレスはカチカチと歯を鳴らし、また爆破された。
『つい3ヶ月前に4度目の整形を完了。これ以上の整形は不可能』
シェイドはつらつらと述べた敵の情報は、警察から貰った資料に記されていたもの。
『ここからは私の推測ですが、』
シェイドはそう前置きして更に続ける。
『また整形をする為に、まとまった大金をすぐ手に入れたかった貴女は、己の心の病にも気付かず、大胆にもヒーローを味方につけた。そして子供を人質に大金を手に入れようとした』
シェイドは一息つくと、言った。
『貴女の誤算は2つ。1つ。この町に私がいた事。2つ。雇ったヒーローを雄英高校卒業生にした事。そして不運だったのは、私が警察に言われないと動かないヒーローという事。以上』
シェイドが警察に依頼された仕事。それは、
子供の解放、そしてエンプレスの受け渡し。
エンプレスは殺してでも捕らえろ、と言う通達だ。
シェイドにとって、この仕事が実力に合わないと春香に心配されたのは、雄英高校卒業生のヒーローと戦っても勝算がないから。