第4章 おくびにも出さない
シェイドは新聞を読みながら、洗濯物を取り込んでいる時に見かけたデクの事を考えていた。
彼の脚力なら、空を飛ぶ事くらいとても容易な筈だ。しかし、彼はそうしていなかった。わざわざ建物の屋根を経由して移動していた。
それでもあの速度だが、考えれば考えるほどわからない。
何かを探していたんじゃないかとも思ってしまう。
常に周りを意識して、事件らしきものが発生したら直ぐに駆けつけられるようにしているのならば感心だ。
シェイドが新聞を読んでいる時と同じ時。つまり、午後6時15分。
デクはとある大きな建物の門前に立っていた。
木造の純和風な門は、奥にある建物を長年守り通し続けているようだ。
「ごめんください!」
デクは奥の建物にまで聞こえるように、大声を出す。
「すみませーん!ごめんください!依頼を受けたヒーローデクです!」
ここでやっと声が帰ってきた。
「はい。今開けますね」
それとほぼ同時に門が開けられる。妙齢の茶髪の女性が姿を現した。女性はデクを見ると、ふわりと微笑んだ。
「本日はありがとうございます。さ、中へどうぞ」
「お、お邪魔します」
デクは緊張しながら門をくぐる。
中庭には人の手で作られた小川が流れ、所々に置かれた大きな石には綺麗に苔が生え、夕方の太陽に輝いている。一際目立つ大きな一本松はよく手入れが行き届いている。
デクは女性と石畳みの道を進んで玄関に着く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
見た目が豪華ならば中も豪華。日本家屋の豪邸、と言った感じだ。
「………」
デクは言葉を失った。
「奥へどうぞ。他のヒーローも来ております」
「僕の事務所以外にも依頼を出されていたのですか?」
「はい。詳しい意図は存じておりませんが、主人がそうおっしゃいましたので」
そう言いながら女性が襖を開けるとそこには、デクのよく知る人物たちがいた。
「えぇっ!?かっちゃん?!き、切島くん、上鳴くんも!」
目を丸くするデクは思わず声が大きくなる。
そこにはヒーローコスチュームに身を包んだ、爆豪、切島、上鳴が座布団にあぐらをかいていた。目の前のテーブルに3人分の湯呑みが置かれている。