第3章 根掘り葉掘り
「オイラが写真を送る理由は、単にお前にも見てほしいからじゃないんだ」
「……?どういうこと?」
急に峰田の声のトーンが下がる。
「ちょっと、調べてほしいんだ」
「……僕が?」
「そう」
「何を?」
「この人の“個性”」
緑谷は躊躇った。否、躊躇わずにはいられない。
赤の他人の個性を探ろうなど、余程のことがない限りやってはならない。例えば、何か大きな事件の容疑者だったり犯罪者だったり。
緑谷は申し出を断ろうと口を開くと
「この人、今緑谷がいる町にいるらしい」
峰田がワンテンポ早く言った。
「え?僕が仕事で来てる、この町に?」
緑谷の問いかけを峰田は肯定する。
緑谷は唸った。
峰田のいる町は緑谷のいる町の隣の県にある。移動距離は結構ある。峰田が自分に頼んでくる理由も頷ける。
しかしながら、緑谷は先程から峰田に対する疑問がいくつかあった。
「峰田くん、どうして君の言う女性ヒーローの個性を探ろうなんて思うの?」
「うーん、なんと言うか、奇妙だったんだ」
「奇妙?」
「おう。あの人、地面に入ったまま敵の足を撃ったんだ。しかも、その敵の撃たれた脹脛には銃口の形をした火傷痕があったんだ」
「確かに、変だね」
「だからお前に頼むんだ、緑谷。お前の観察眼を見込んでのことだぜ?」
緑谷は少し黙ると、「考えさせて」と峰田に告げた。
「じゃあ、写真だけでも送るわ」
「は?」
緑谷の返事も聞かずに切られた電話の後に届いた一通のメール。送り主は言わずもがな峰田である。
緑谷は、見るだけだ見るだけだ、と念じながらメールを開く。
そこには2枚の写真が送られて来ていた。
そして、緑谷には見たことのある、否、話したことのある人物だった。
1枚目は優しい麗らかな表情で老婆に鞄を差し出す彼女。
2枚目は冷徹な目で男を見下ろす彼女。見方によっては、相手を人間と思っていないようにも見える。
今よりも髪は長めだが、忘れられない髪。濡れたように輝く黒髪。
容姿端麗と言う言葉のためだけに生まれたような立ち姿。
「シェイド……!」
つい昨日、会ったばかりの新人プロヒーロー、シェイドの写真が2枚、緑谷の元に届いた。