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卑しき狗の愛憎

第1章 邂逅


深夜、ヨコハマ港のポートマフィアが所有する倉庫の裏。月の美しい夜だったが、時々厚い雲がその柔らかな光を遮る。光を遮られた仄暗い陰に物々しい雰囲気を漂わせる黒服の男達がいた。

「全く愚鈍な部下には、ほとほと手を焼かされるよ。誰がいつ敵を惨殺しろと命じたのかな。」
そう言うと太宰は、芥川の左頬を殴った。その反動でよろけ、ドサッと後ろに尻餅をつくように倒れる。部下の一人が助け起こそうとしたが、強く振り払った。
「ゲホッ…、申し訳…、ありません…でした…。」
唇の左端が切れ、血が滴り、左の頬は赤くなっていた。よろよろと立ち上がり、唇の血を拭う。
「まぁ、今日はいい。後は私の方で処理しておく。君は帰りたまえ。」
蔑むような視線でそう言った。
「しかし…!」
「言っただろう。今日は"先生"が帰ってくる日だ。それを狙った敵対組織が"先生"を待ち伏せするという情報があった。だから君に"先生"を出迎える為の"掃除"を頼んだのだろう。汚せとは言っていない。」
この任務を請けた芥川は、この場所に待ち伏せしていた組織の兵を"掃除"しに来たわけだったが、人を迎えるにはあまりにも酷い惨状だった。辺りに敵の死体が転がり、血溜まりが所々にできていた。
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