第5章 行かないで
「ごめん、もう時間」
「もう・・・俺行かなきゃ」
「い、いや!!!!!」
やだ、やだ
行かないで
いやなの
本当にいやなの
行かないで・・・!!
彼の溜息が聞こえた。
「泣き虫、欲張り、ワガママ」
「・・・・」
「そばにいるって、言ったじゃん」
「・・・・」
「信じられないわけ?」
「・・・・」
「まだまだだね」
顔は見えないけれど
想像がつくの。
口角をあげて
まゆを下げて
優しく笑ってるの。
大好きな
リョーマくん
「口にするのとか苦手だから、一回しか言わないけど」
リョーマの吐息が
耳にかかって
あたし
もうすぐとけそうな
魔法に
しがみついてる。
「が俺のことを見てたのは知ってる」
「これからも ずっと」
「ちゃんといるから」
「のそばに俺はいる」
口にされたその言葉と
確かに感じた
自分の頬への
彼の柔らかい感触。
チュッと音をたてたそれは
偽りのように
消えた。