第15章 DEAD APPLE
コレクションルーム、ドラコニアを無数の赤い螺旋が走り、赤い光球が輝きを強める。それはまるでドラコニア自体に意思が宿り、溢れ出る力を揮うかのようだった。
幾百、幾千の異能を喰らい膨れ上がった光は、其処に倒れている太宰治の遺体まで取り込もうとする。
太宰の遺体が浮き上がり、光に呑み込まれた。
赤い光の暴走を気分良く眺めていたフョードルは、やや驚いた顔をする。
「……君は欲張りだな、太宰君。死して尚、この街の終末を見届ける気か」
赤い光球に、太宰の体が溶けた。
直後、爆発を起こしたように光が周囲に広がった。窓硝子が砕け散る。光は最早、小さな塔などには収まりきらぬと云いたげに、骸砦から外へと滲み出て行く。
気が付くと荘子がドラコニアの扉に手をかけていた。
「何方へ?」
フョードルの問いに背を向けたまま「私は私の望みの為に」と告げて重い扉の奥へ消える。その扉に向け「良い終焉を」とフョードルが微笑みかけた。
フョードルはふっと手の中の髑髏に語りかけた。
「あなたに、ぼくという初めての友達が出来た記念に、いいことを教えましょう。この霧の中で、なぜぼくの異能が分離しないか考えた事はなかったのですか?」
答えるように、足音がドラコニアに響いた。ゆっくりとドラコニアを横切り、床に落ちていたリンゴを拾う"彼"の手には、赤い結晶が輝いている。"彼"は、フョードルと同じ顔をしていた。
リンゴを持つ"彼"と、髑髏をもつフョードル。二人は互いに自分の持つ球体を掲げ乍、背中合わせになって囁く。
「ぼくは罪」
「ぼくは罰」
同じ声を持つ二人の言葉が、ドラコニアの空気を揺るがす。
「知ってるかい?」髑髏を持つフョードルが嗤う。
「罪と罰は仲良しなんだよ」罪の果実を持つ彼が笑む。
「境界が消滅する」「部屋が目覚める」
「終焉の化身、異能を喰らう霧の王」「熱量そのままに、本能そのままに、暴れ、喰らい、咆えたけりなさい」
紫水晶の瞳が歪み、唇が弧を描く。
溢れた光は赤い霧のように世界を侵食し、あっという間に大きくなっていく。やがて輪郭を整え、ひとつの巨大な生物を形作る。
蛇の様な体躯は輝く鱗で覆われ、長い鬣が威厳を放つ。
狂暴さを感じさせる牙ひとつひとつが、人の躰よりはるかに大きい。
ヨコハマの街に、龍が降り立つ。
龍は咆哮でもって、自らの存在を世界に知らしめた。
