第9章 大切にするが故に
隠れ乍廊下を進む。階段で目的の階まで向かった。
先ずは二階を見ることにした。ゆっくりと階段と廊下を繋げる扉を開けた。
「おい」
「っ!?」
聞き覚えのある声に悲鳴が漏れそうになる。私は開けた扉の横に視線を向けた。
「……中也」
「よォ、元気そうだな。葉琉」
全身黒を基調とした服装、黒の中折れ帽、その下から覗く少し癖のある赤毛。間違いない、中原中也が其処にいた。
「私を捕まえにきたの?」
「手前を捕まえたら葉月が逃した事バレるだろ」
「あらあら、相変わらず葉月には優しいのね。幹部様が公私混同は宜しくないんじゃない?」
中也は小さい舌打ちをした。
「ンだよ。また牢に戻りてェならそう言えよ」
「嘘、ごめんね。私を捕まえに来たんじゃ無いなら何で此処に居るの?」
「不出来な元部下の顔を一度くらい拝んでやろうと思ってな」
「わぁ、酷い言い様ね」
中也は背を向けてゆっくりと歩き出した。
「太宰の莫迦なら通信保管室だ。手前もさっさと消えろ」
そう言って此方を見る事なく行ってしまった。
「有難う、中也」
聞こえる筈もないお礼を述べ、通信保管室へ向かった。
通信保管室は電子錠が付いている。治ちゃんは解除できると思うが私にはそんな技術はない。蹴り壊す事は可能だが、それをすれば忽ち囲まれてしまう。如何したものかと考えていると不意に扉が開いた。中から顔を出したのは治ちゃんだった。
「やぁ、葉琉。そろそろだと思ってたよ」
そう言って中に招き入れた。
「ねぇ、治ちゃん。お話したい事が沢山あるんだけど」
「なんだい?愛の告白かい?こんな処で葉琉は大胆だね」
何時もの調子で巫山戯た態度を取る治ちゃんを何も言わずに睨んだ。治ちゃんは肩を竦めて「冗談だよ」と言った。
「だが、今はマフィアの本拠地だ。話は戻ってからでも佳いかい?」
私は小さく「判った」と返答した。私の答えを確認し、治ちゃんはパソコンに向かった。私も横から覗き込んだ。
「何を調べるの?」
「敦君に懸賞金を掛けたのが誰か、知りたくてね」
暫くすると、目的の資料が画面に表示された。私も治ちゃんも息を呑んだ。
「治ちゃん…ここって」
「…これは驚いた」
治ちゃんは持って来ていたUSBにその資料を写した。そして二人でその場を後にした。