第2章 ***
「坂上くん、タイム0.2秒縮まってるよ!その調子!」
「西園寺さん…」
一日の授業が全て終わり、ようやく部活の時間…俺にとってはそれが至福の時だった。
大好きな水泳が出来る事は勿論だが、水泳部のマネージャーである西園寺さんとこうしてコミュニケーションが取れるからだ。
彼女は俺にとって憧れの存在。
美人で優しくてお淑やかで…彼女に片想いをしてもう1年程になる。
けれど西園寺さんは同級生だけでなく、下級生や上級生の男子生徒からも人気で…そんな高嶺の花である彼女に告白なんて到底出来ずにいた。
もしこの気持ちを伝えて拒絶されたらと思うと怖くて…
(この関係が壊れてしまうくらいなら、今のままでいいんだ…)
「…遅い」
「っ…」
シャワーを浴びて部室へ戻ると、そこにはクラスメイトであり幼馴染でもある明莉がいた。
俺は1人残って自主練をしていたので、もう他の部員はおらずそこにいるのは彼女だけだ。
「…なんで部外者の明莉がここにいるんだよ」
「なんでって…圭太が淋しがらないように待ってあげてたんでしょ」
「ハァ…ガキじゃあるまいし、誰が…」
「ふーんだ、昔は超泣き虫だったくせに」
「っ…、そんなのガキの頃の話だろ!」
ムキになってそう返すと、明莉が可笑しそうに声を上げる。
(コイツ…)
彼女とは家が隣同士で、保育園の頃からの付き合いだ。
どちらかと言うと性格は男勝りで、昔は気の弱かった俺の手を引いて前を歩くような女だった。
今でもお姉さんぶりたいその性格は変わっていないようだが…
「…つーか俺着替えたいんだけど」
「着替えれば?」
「だったら外で待ってろよ」
「なに今更恥ずかしがってんの?昔は一緒にお風呂だって入っ…」
「だから昔の話すんなって!」
「あははっ、ムキになっちゃってかーわいい」
「…っ」
完全におちょくられている…
けれどここでまたムキになれば、明莉の思うツボだ。
俺は着ていたパーカーを脱ぐと、制服の入っているロッカーへと手を伸ばした。
「それにしても…圭太ってイイ体してるよねー」
「…は?」
「広い肩幅も厚い胸板も、さすが水泳部!って感じ」
「……、」
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