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暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第12章 DEAD APPLE


結果は判っていても、葉月は短刀に力を込める。

「何故、私なんですか?元から判っていたでしょ?私には貴方を殺せない。私がどんなに貴方を殺したくても、私には不可能。葉琉を巻き込まずに終えたくても、私にはできない」

荘子は葉月を見つめていた。否、葉月と重なる何かを見つめていた。荘子の唇が微かに動き始める。

「最初は、ただ死ねれば良かった。私も早く、あの子の元へ行きたかった。何百年も、何千年も色々と試してきた。確かに……君達は容姿は変わらない。でも、あの子と同じ仕草をするのは君なんだ。殺されるなら、君が良かった。死ねるならどんな死に方でも構わないと思ってきた私が、真逆確実ではない死に方を選ぶとは思わなかったよ。……次は確実な方法を選ぶとしよう。死に方に拘るのはこれが最後だ」

何か愛おしいものを遠くに見つめる荘子に、葉月は目を逸らす。葉月の中で暴れていた力が短刀を通して荘子を凍らせていく。冷気が渦巻き、氷の破片が宙を舞う。

「凍れ!!」

葉月の祈りに似た叫びが響く。持てる力を全部注ぎ込む様に短刀に集中する。冷気の渦が弱くなると、荘子の躰は氷に包まれていた。

葉月が短刀から手を放すと、荘子の躰は粉々に砕かれた。葉月はその氷の粒を救いあげると強く握りしめる。

(ここまでしても、私にはできないんだ…)

握りしめた拳を地面に殴りつける。ここで終わらせたかった。葉月の望みも、荘子の望みも叶えられなかった。この状況でも、荘子は生きているのだろ。

思考が止まり始める。頭が動かなくなる。顔を伝う生暖かい感触。血だ。
葉月の鼻から、口から、血が流れている。

(これが代償か……)

無理な能力強化で葉月の躰はぼろぼろだ。あんなに力を解放したのに、まだ内で暴れて回っている。

「葉月!」

ふらつく脚で葉琉が駆け寄ってくる。葉月は葉琉の腕の中に収まる様に倒れこんだ。葉琉の右手からは血が流れている。眠気を飛ばす為、破片でも握ったのだろう。
薄れゆく意識の中、最後に浮かんだのは謝罪の言葉だった。
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