第12章 DEAD APPLE
中也はひそやかに声に出す。
「ーー汝、陰鬱なる汚濁の許容よ、更めてわれを目覚ますことなかれ……」
声に応え、中也の両腕に異能痕が走り始める。膨大な力が溢れ出す。汚濁は始まった。もう中也自身にも止めることは出来ない。ビルに降り立つと同時に、降り立ったビルそのものを破壊した。砕け散ったコンクリートの破片を足場に、龍に近づいて行く。向かう先は龍の正面だ。
中也の気配を悟ったのか、龍は中也に向けて尾から無数の光線を放つ。それは龍の形となって中也に襲い掛かり、搦め捕った。だが、中也はそれを内部から喰い破る。
中也は右手に大きな重力子弾を発生させ、龍の鼻先に撃ち込む。同時に、龍もまたその咢から光弾を撃ち放った。重力子弾と光弾とがぶつかりあい、衝撃波が走る。
中也の躰が衝撃で弾かれた。重力を操る間も無く、中也は空から一直線に落とされ、地面に叩きつけられる。中也の躰は石畳に埋まり、動かない。
龍が開けていた口を閉じ、光がおさまっていく。
数秒の攻防で、龍と中也の戦いは決着したかに見えた。
けれど、次の瞬間。ビルが、まるごと重力を無視して浮き上がっている。中也は三〇階以上ある大きなビルを持ち上げ、龍に向かって打ち下ろす。
一撃。二撃。
獣じみた雄叫びをあげながら、中也がビルで龍を殴りつけた。龍が再び、光線を撃とうと開いた口に、三撃目。中也がビルをまるごと龍の口に叩き込む。
それにより生まれた隙を狙って、中也が拳を振り上げる。全身全霊を込めて、重力子弾を撃ち込む。
「太宰!」
叫びは大気を震わせ、弾は龍の躰を穿つ。龍が身を捩らせ、耐えきれなくなったように全身が光に変じた。閃光が走る。
龍が消え、かわりに真紅の光があふれだす。目を灼く光の中で、骸砦がゆっくりとその形を失っていく。
龍が消えた光の中心地では、中也が拳を握りしめ、振りかぶる。振り抜いた中也の拳が、浮かぶ太宰の頰を殴り飛ばした。