第10章 華麗なる幕引きを
葉月は一人で執務室に居た。不意に入る私用端末へのメールに溜息を零し、執務室をでた。
向かう先は黒蜥蜴が待機している部屋だ。葉月はノックをして扉を開けると目的の人物を見つけた。
「萩原です。広津さん、少しいいですか?」
広津は葉月に呼ばれ廊下へ出て来た。葉月は扉を閉めると廊下の陰を横目で確認し話を始めた。
「如何やら探偵社が白鯨への潜入を試みる様です。潜入するのは人虎と考えられます」
「我々も行動を起こしますか?」
「否、探偵社とは協定を結んでいますので命令が有るまでは待機でしょうね」
「判りました、準備はしておきます」
「宜しくお願いします、広津さん」
カサッと廊下の陰から物音が聞こえ、同時にずっと感じていた気配も消えた。葉月と広津はそれを確認するともう一度向き直った。
「済みません、広津さん。こんな茶番に巻き込んでしまって」
「否、貴女は唯、太宰君に巻き込まれただけですから。しかし、些か態とらしかったのでは?」
「あ、広津さんもそう思います?私、役者は向いていない様ですね」
クスクスと笑っている葉月に広津は別の質問をした。
「中也殿は戻られましたか?」
葉月は首を横に振ると「まだ検査中の様です。何分、久々の汚濁でしたので」と答えた。
「左様ですか」
「はい。では失礼します、広津さん。また後で」
広津は黙って頭を下げた。