第9章 双つの黒と蕾の運命
中也の左手は何かを拭う様な動きをした。
「何泣いてンだよ」
「え?」
確認すると瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「如何して…」
中也は何も言わずに葉月の顔を自分に近付ける。触れるだけの優しい接吻だ。
「中也、ちゅうやぁ…」
次々に溢れる雫を止める事が出来ず、愛しい人の名前を呼ぶ。中也は慌てて起き上がり「如何したンだよ」と少し困った顔で頭を撫でてくれた。
「ごめんね、中也。話さなきゃいけないとは思ってたの。でも、怖くて、何から話していいか判らなくて」
一生懸命涙を拭うが追いつかない。止めたくても止められない。中也は軋む躰を動かし葉月を抱きしめ、子供をあやすかの様に優しく背中を叩いてくれた。
「ちゃんと聞いてッから、落ち着けよ。な?」
「…うん」
中也の腕の中で深呼吸し、先ずは気持ちが収まるのを待った。話しても、中也は変わらずに好きだと言ってくれるだろうか。その不安は払拭出来ない。
「落ち着いたか?」
耳元で囁く低音が心地よかった。葉月は頷いた。
そっと躰を離し、中也の目を見る。中也も葉月を真っ直ぐに見つめていた。
葉月は太宰に話た事と同じ事を話した。時々表情を歪めたり考えたりしていたが、中也は黙って話を聞いていた。
「後半は殆どが私が考える可能性だけど、寿命が縮まっているのは何となく感じてるの。【漂泊者】の時もそう、眠ったらそのまま目を覚まさないんじゃないかって怖くなる。でも【漂泊者】は能力を譲渡するのに必要な事だしね。……まぁ、前例のない事だから実際は如何なのかは判らないけど」
葉月は目を伏せると「だから、私といても中也を悲しませるだけかもしれない」と続けた。中也は訝しげな顔をすると「何云ってんだ?手前」と口にした。
「俺達はマフィアだ。常に死と隣り合わせじゃねぇか。今日だって俺がいなかったら手前等は死んでッかもな。いつ死ぬかなんて誰も判ンねぇだろ。それなら後悔し無ェように生きようと思わねぇか?」
中也はニッと笑うと「それで、手前は如何したいンだ?」と尋ねた。