第4章 西方組織抗争
「…ん」
中也はゆっくりと目を開ける。何か今日は凄い寝心地が良かった気がした。ふと、自分の腕の中の存在に気がつく。
(俺確かシャワー浴びて…)
自分の記憶を呼び覚ます。腕の中にいる葉月の頭を撫でる。
「起きました?」
葉月は急に振り向き不機嫌そうな声で尋ねて来た。
「は!?手前起きてたのか!?」
中也は驚いて手を避けた。
「放して下さい」
「あ、悪ィ」
中也は直ぐに避けてくれた。
「…怒ってるか?」
中也が恐る恐る尋ねてくる。正直、怒ってないと言えば嘘になる。だが、それよりも心地良いと思ってしまった自分の心の揺らぎが腹立たしかった。
「怒ってますとも。自分に」
「自分に?」
「何でもない。ほら、早く出てって!着替えるから!」
私は中也を部屋の外に出した。
そして、扉をしめて深い溜息を吐き、扉に背中を預け乍しゃがみ込んだ。
「中也の莫迦」
そう呟いてまた深い溜息を吐いた。
着替えが終わると、何事もなかった様に荷物を纏めた。中也も拠点に行く事なく、まだ家に居た。
「私一人で行くからいいよ。空港までって言ったって車でそこそこ掛かるんだし」
「いい、送る」
中也の短い返事だけが聞こえる。
荷物もまとめ終わり、迎えの車を呼んだ。
来た時と同じ様に、中也は黙って外を見ていた。
「何か見える?」
気まずそうに何も話しかけて来ない中也に変わり、私から話しかける。中也は少し驚いたようだが、いつもと変わらない私をみて少し安心したように笑ってくれた。
「やっぱヨコハマの方がいいなって思ってな」
「じゃあ早く戻って来なきゃね。私先に帰るけど、寂しがらずに仕事してね」
「誰が寂しがるんだ!葉月こそ、俺が居ねぇからって向こうで好き勝手するンじゃねぇぞ!」
車内には私達の笑い声が響いていた。
空港に到着し、受付を済ます。
「じゃあ、私行くね」
「おう。気を付けろよ」
「大丈夫だよ」
にっこりと笑う私を中也は抱き締めた。
「葉月の笑顔が本物になるまで、俺は待ってる」
最初は中也の言葉の意味が判らなかった。だが、直ぐに気が付いた。
(そっか…中也は気付いてたんだ)
私は何も言わずに中也から離れて手を振って搭乗口へ向かった。
中也もその後は黙って見送ってくれていた。